忍者ブログ
「がぁら」と聞いてわからない方は回れ右ー。 此処はがぁら住人のサクラとミアミル、そしてシャオリルティの秘密基地。
[34]  [33]  [32]  [31]  [30]  [29]  [28]  [27]  [26]  [25]  [24
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




「ねぇ。この子、もしかしてサクラ?」

シャオが一枚の写真を指差して尋ねてきた。
荷物運び用らしい、大きな荷台の馬車の前で黒髪の幼い女の子と銀色の髪の
青年が笑っている。
どこから持ち出してきたのか...私は驚いて瞳を丸くしてから微笑んで頷いた。




「そだよー。懐かしいな。たぶん、6歳くらいかなぁ。」

「やっぱり。笑顔が全然変わってないのですもの。」

「え、そう?」

隠れ家の共有スペース。
私はテーブルで街の情報誌を読んでいて、シャオは写真を手にしたままその向かい側に座る。
そして人差し指を横にずらして、不思議そうな蒼い瞳で私を見上げた。

「それでは、こちらの方は?」

「その人は...私のお兄ちゃん、みたいな人。」

指差された銀髪の青年。
年頃で言ったら十代後半位。
私は本を閉じて、ふわりと笑んだ。
話は十年とちょっと前に遡る。

 


「おにいちゃーん!」

「お、サクちゃん。今日も来てくれたの?」

「もちろん!」

がぁらからそんなに離れていない国の小さな町。
広場での公演が終わって、旅芸人の一座は片づけに取り掛かろうとしている頃だった。
散らばり始める群集の中から一人、私だけが駆け寄る。
その先には、例外なく片づけを始めようとしていた青年が一人。
それが“お兄ちゃん”。

「あのね、お兄ちゃん。とーっても重大な発表するね!」

「発表?」

「うん!」

お兄ちゃんが私と話すときはいつもしゃがみ込んで、視線の位置を合わせてくれてた。
その時は何を言われるのだろうか、とでも思ったんだと思う。
首を傾げながら。

「あのね、私ね...」

「ん?」

「お兄ちゃんといっしょの一座に入るの!」

「一座に?」

鷲色の瞳をとってもキラキラさせている幼い私の様子に、お兄ちゃんは笑みを溢す。
そしてくしゃり、と黒髪を撫でてくれた。

「そうだな、サクちゃんがもっと大きくならないとなぁ。」

「うん!だから、待っててね!」

幼い故の無邪気な言葉に眉を下げるお兄ちゃん。
優しく優しく、髪を梳いてくれれば残念そうに口を開いた。

「あぁ...でもきっと、それまでに一座はこの町を出発しちゃうんじゃないかな。」

「出発?」

「そう。話しただろ?俺らは色んな国を回るんだ。ずっと此処にはいられない。」

途端にしゅんとする私を見て、気の利いた言葉が浮かんでこないらしいお兄ちゃんは
困ったような笑みを浮かべる。

「で、でも、ほら。またこの街に戻ってくるかもしれないし!」

「うん...。」

一座の仲間からは「女の子を泣かすなんてサイテー!」だのなんだのと、野次が飛んできていて。
お兄ちゃんははそれに反論しつつも、ポリポリと頬を掻いて私を見遣るのだ。

そんなことは知らないで、私は突如、声を上げて。
とっても真剣なその様子に、お兄ちゃんは笑みを零していた。

「お兄ちゃん!」

「お、何?どーした?」

「今まで言った国の中で、一番楽しかった所はどこ!?この国以外で!」

「ええ?うーん...そうだな。がぁら、かな」

「がぁら?」

「そう。冒険者が集まるんだよ。それに人間だけじゃなくて獣人やエルフもいる。」

「じゅうじん?えるふ?」

「そう。サクちゃんは会ったことないのかな。動物でもあり人でもある、それが獣人。
 それからとっても長く生きる綺麗な森の民、それがエルフ。」

「...よくわかんない。」

「はは、口で説明するのは難しいな。でも、がぁらにはそういう人たちがたっくさんいるんだよ。
 それに聞いたことも無いような話がいっぱい聞ける。」

私は首を傾げて、そしてお兄ちゃんの話を聞きながら、懸命に考えていた。

「私、いっぱいいっぱい練習する。それで、おっきくなったら、そこに行くね!
 そしたらお兄ちゃんにも、きっとまた、いつか会えるよね?
 それで、一座の仲間として連れてってくれるよね?」

幼いながらに出した結論。
お兄ちゃんはは目を丸くしていた。
そして問いには答えないものの、優しく笑いかけて。

「そっか。それならきっと、たっくさんの大事なひとと出逢うんだろうなぁ。サクちゃんは。」

私はお兄ちゃんの笑みに答えるように笑った。
そしてその時はちょうど、一座の一人が私を泣き止ませようとして
キカイをひとつ持ってきたところ。
もっとも、私はこれっぽっちも泣いたつもりはなかったんだけど、ね。

「あれ?泣いてない!」

「つーか泣かせてねぇ。」

「これ何ー?」

それは、写真をとるキカイ。
せっかく持ってきたし...と、一座の馬車の前に準備を始める。

「ほら、そこ並びなー。撮ってやる。」

「やったー♪」

そうして、二人で並んで笑って。
数日後に現像された一枚の写真を手渡したお兄ちゃんは、
一座と共にその街を出たのだった。

 

 

「つまり、この方がいなければサクラは大道芸をやっていないのですわね。そして
 この国にもいない、と?」

「んー...この職についたのは、そうだね。小さい頃の話だから、実際はがぁらって国名も覚えてなくて...
 どこに行こうかって情報収集してたときに旅の人にがぁらを勧められたから、それで思い出したの。」

シャオはまじまじと写真を見つめる。
そして不安そうに顔を上げた。

「もし、この方とまた会ったら...サクラは行ってしまうの?」

「あは、どうだろう、ね?それよりシャオ。そろそろミア起こした方がいいんじゃない?」

くすり、と私は笑みをもらしてそれだけ言った。
私は三人分のココアを入れに、キッチンに向かおうと席を立つ。
――今思い返せば、お兄ちゃんはこうなることが分かってたんじゃないかな。
寝起きのミアとそれをたたき起こすシャオのやり取りを遠くに聞きながら、
甘い匂いが香り小鳥が囀る、そんな昼下がり。


 

 

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新コメント
[07/06 桜]
[07/05 ミラベル]
[03/23 桜]
[03/23 金色いの。]
[03/21 桜]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
No Name Ninja
性別:
非公開
自己紹介:
萌える!アバターメーカー(http://www.moeruavatar.com/ )
にて、画像作らせていただきました★
バーコード
ブログ内検索
カウンター
Material : ミントBlue 忍者ブログ [PR]